自分の思考をプロンプト化してチームに配り、フィードバック会議を廃止。空いた時間で提案の質×量を引き上げ、商談記録のAI抽出で現場感もキープ。管理職×AIの実践を中川さん本人が語ります。
営業の最前線からマネジメントへ──管理職になると「現場感が薄れる」「フィードバックに時間が足りない」というジレンマに多くの人がぶつかります。今回は、自分の考え方や判断基準をAIへの指示文(プロンプト)に落とし込み、チームに配布するという独自の取り組みで、提案の質と量を同時に引き上げている株式会社Exa Enterprise AI・AIプロダクト事業部 営業部長・中川皓貴さんに、その実践をじっくり聞きました。
中川 皓貴(Nakagawa Hiroki)
株式会社Exa Enterprise AI・AIプロダクト事業部 営業部長。トップセールスとして自ら現場に立ち続けながら、約70名の営業組織を牽引。生成AI市場の激化に伴い、「カタログ営業」から「インサイト営業」への転換を主導。自身の営業理論とフィードバックのログを徹底的にデータ化し、実務で機能する「営業マネージャーAI」を開発・実装。AIと人間が共生する新しい組織運営を実践している。子会社Exa Enterprise AIにおいて全社MVPを受賞し、続けてエクサウィザーズ全社MVPも受賞。
この記事を読むと、こんなことができるようになります。
- 自分の思考をAIに移して、メンバーへのフィードバックを仕組み化する考え方がわかる
- 浮いた時間を「提案の質×量」に再投資する具体的なやり方がわかる
- 商談記録のAI抽出で、管理職になっても現場感をキープするヒントが得られる
この記事は5分で読めます。
1. "自分のAI分身"をチームに配った
── まず、AIを使い始めたきっかけを教えてください。
中川:もともと、商談だけでなく社内ミーティングの録画書き起こし、Slackの投稿、フィードバックのデータなど、自分の発言や考え方のデータが大量にあったんですね。それをもとに、自分の思考パターンを再現するAIエージェントを作ったのが出発点です。
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── 自分の"思考回路"をエージェントに落とし込んだ、と。
中川:そうです。で、それをチーム内部に配布しました。メンバーには、商談前の準備や商談後の振り返りのときに、このエージェントを使ってもらうようにしています。
2. 毎週2.5時間のフィードバック会議を廃止できた
── 配布する前は、どうやってフィードバックしていたんですか?
中川:もともと、メンバーの商談準備やフィードバックは僕が直接やっていました。毎週1人あたり30分、5人の部下に対して行っていたので、それだけで毎週2時間半です。
── それがなくなった?
中川:はい。そのミーティングを廃止しました。プロンプトを配布することで、メンバーは僕に聞かなくても「中川さんならこう言うだろう」というフィードバックをAIから受けられる。僕はその分、別のことに時間を割けるようになったんです。
3. 空いた時間で「提案の質×量」を一気に引き上げた
── 浮いた2.5時間は、何に使っているんですか?
中川:提案のチューニングですね。以前は1つのストーリーを作り込むのが精一杯だったんですけど、今はAIを使いながら何パターンも回せるようになりました。「伝え方A・B・C」みたいな感じで切り口を変えて、お客さんに合わせて出し分けるんです。
たとえばスライド用の画像を作るときは、「Nano BananaやGPT Image」というAI画像生成ツールを活用しています。テキストで指示を出すだけで、提案書にそのまま貼れるビジュアルを自動で作ってくれるんです。
編集部注:この記事はGPT-Imageを活用しています
参考リンク(いずれもご利用には エクサベース AI へのログインが必要です)
── バリエーションが増えたことで、何が変わりましたか?
中川:提案の成功率も上がったし、提案件数も増やせるようになりました。今までよりも確度の高い提案を、量産できるようになったのは、とても大きいですね。
4. 現場を離れても"現場感"を失わない仕組み
── マネージャーになると、直接の商談機会は減りますよね。現場感が薄れる怖さはありませんか?
中川:そこなんです。管理職って、見る範囲が広がれば広がるほど、一つひとつの質が落ちるリスクがある。だから今は、商談の同席録画・議事録をAIで全部抽出しています。
── どのように使っているんですか?
中川:たとえば「今日の全員の商談から、お客さんの反応が良かったトークを抽出して」とAIに投げると、"こういう声が多い""こういうトークにはこう跳ね返ってきた"というパターンが見えてくるんです。管理職として現場から離れるリスクを、仕組みで担保できるようになったのは本当に大きいですね。
── テキストと動画、どう使い分けていますか?
中川:リアルな温度感を知らないといけないものは、移動中に動画で聞いています。通勤の1時間半がそのままインプットの時間になります。一方で、全件をさばくときはテキストで一気に目を通して、「今日マネージャーとして見るべき商談はどれか」をAIに聞いて優先順位をつける。「じゃあ明日の通勤時間にこれを聞こう」と決める感じですね。
5. 全体像:3つの仕組みで"管理職のジレンマ"を解消
── ここまでの話を整理させてください。
中川:はい。大きく3つですね。
| # | 仕組み | やっていること | 効果 |
|---|---|---|---|
| ① | AIペルソナの配布 | 自分の思考回路をプロンプト化し、メンバーに配布 | 週2.5時間の定例フィードバックを廃止 |
| ② | 提案の複数パターン化 | 空いた時間で提案ストーリーをAIでチューニング | 提案の成功率UP × 提案件数UP |
| ③ | 商談記録のAI抽出 | 全商談のテキスト・動画からパターンを自動抽出 | 管理職でも現場の解像度をキープ |
管理になればなるほど見る範囲が広がって質は落ちるはずなのに、それを担保しながら広げられている。これが自分としてはとても嬉しいポイントです。
6. AIが活きるのは"コミュニケーションの中心"にいる人
── どんな人がAIの恩恵を受けやすいと思いますか?
中川:間違いなく、周囲とのコミュニケーションが多い人ですね。現場の意見を拾いつつ、経営への報告もしなきゃいけない──そういうコミュニケーションの中心にいる人は、リアルタイムで全部さばかなくてもいい幅が増えるんです。
部長クラス、プロダクトマネージャーなど、日々話す相手や扱うテーマがめまぐるしく変わる人ほど効果が出ると思います。
7. 他社の管理職にも広げられるか?
── お客さんの管理職にも同じことを提案できそうですか?
中川:ニーズは確実にあります。うちの話をすると「え、どうやってるんですか」「自分もやりたいんですけど」って反応が来るので。
── ただ、ネックもある?
中川:そうですね。そもそもデータがないんです。議事録を取っていない、社内チャットで情報を流す文化がないとなると、AIに読み込ませるもの自体がない。エクサウィザーズではオンライン会議ツールで社内ミーティングもほぼ全部録画するカルチャーがあるので、それがベースになっています。
── データがない企業はどうすればいいですか?
中川:ゼロからでもやれます。たとえば30分、自分がフィードバックで考えている観点をブツブツ喋って録音するだけでも、AIはそれなりのアウトプットを出してくれる。「30分インタビューさせてもらえれば、あなたの考え方を反映したAIを作れますよ」と言ったら、喜ばれるはずです。
8. 「5分が1分になる」より「楽しい」で動く
── 管理職のお客さんにAI活用を広めるとき、刺さるのは"効率化"ですか?
中川:正直、「5分が1分になります」だと響かないんですよ。「分かるけど別にいいや」って反応になりがち。それよりも、心理的に楽になる・楽しくなるという体験のほうが刺さります。
── たとえば?
中川:バイブコーディングですね。これは、プログラミングの知識がなくても「こんな感じのものが欲しい」とAIに伝えるだけで、コードを書くことなしにツールやアプリを作る手法です。AIがない時代には自分では作れなかったものが、AIと一緒なら作れるようになったという「わっ、できた!」体験になりますね。僕も昨日、スプレッドシートのデータから5分でダッシュボードを作ったんですけど、これをメンバーに展開するだけで「すごい!」ってなるんです。
Excelで関数を組んでも誰も見ないけど、ビジュアルで見せると一気に価値が伝わる。
中川さんが実際に作ったダッシュボード(サンプルデータを入れています)
── バイブコーディングで作ったものの精度が不安、という声もありますよね。
中川:わかります。ただ、ダッシュボード程度であれば「10月の実績が10件って合ってるかな?」くらいのポイントを絞った確認で十分なんですよ。もっと複雑なロジックになるとまた別ですけど、見える化レベルならチェックも簡単なので、そこまで怖がらなくていいと思います。
まとめ:管理職×AIの方程式
中川さんの実践を一言でまとめるなら、「自分の分身をAIで作り、チームに渡すことで、管理職のジレンマを構造的に解消している」ということ。
その方程式は、こうです。
- 自分をAI化してメンバーに渡すことで、フィードバックミーティングの時間を浮かせる
- 浮いた時間で提案の質×量を引き上げる
- 商談記録のAI分析で現場感を維持する
管理職になればなるほど、見るべき範囲は広がり、一つひとつの解像度は下がりがちです。しかし、中川さんのようにAIを自らの「分身」として使いこなせば、視野を広げながら、現場の深さも同時に保つことができる。
AIによって行動の質と量を劇的に増やし、そこで生み出した「余白」を、目の前のお客様と向き合うためのエネルギーとして再投資する。効率化の先にあるのは、より人間らしく、より顧客の核心に全力で寄り添う「新しい働き方」の形です。
管理職のジレンマを突破し、現場もマネージャーも共に成果を出していく。AIを「自分の分身」として活かすこの働き方は、営業組織だけでなく、あらゆるチームに応用できるはずです。あなたのチームでも、まずは「自分の思考を30分喋って録音する」ところから始めてみませんか。